2012年3月16日金曜日

皮肉法


 《定義》

皮肉法は、

  1. 回りくどさ : ワザと自分が思っていることと反対のことを言う
  2. 推論 : 聞き手のほうでは、相手の言っていることが思っているのと反対だとキャッチすることになる
  3. 引用性 : 相手が言ったり行ったりしたことに関してのことを言う
  4. トゲがある :相手を非難したり批判したりするために使う
といった特徴をそなえているレトリックです。

なおこれは、"狭い意味"での「皮肉法」を、このサイトで採用したことを意味します。 これはつまり、"広い意味"の「皮肉法」というものもあるということです。

この"狭い意味"での「皮肉法」だとか、"広い意味"での「皮肉法」だとかについては、このページの下のほうに書いておきました。そちらを見ていただければとおもいます。



 《例文を見る》

例文は『フルーツバスケット』7巻。

草摩燈路が登場するシーンです。

じゃあね
ものすごくつまらない時間をくれてどうも
というところに注目してみましょう。

「つまらない」と言っているにもかかわらず、「どうも」というふうに、お礼をつけ加えている。これが「皮肉法」の例になります。本当は、ちっとも「ありがとう」なんて気持ちがないのに、反対に「どうも」と言う。まさに、本心とは反対のことを言っています。これを細かく分ければ「反語的讃辞」となります。

それはそうとして、この草摩燈路は、反語や皮肉を言うのがとっても得意。なもんで、この前後での草摩燈路のセリフにも、数多くの反語や皮肉がちりばめられています。それを、草摩燈路の登場シーンから順に並べていくと…

  • (拾ってと言われたので、靴を拾ってあげると)「何 マジで拾ってんのさ 愚か者」
というのから始まります。たぶん、透に靴を拾わせているのはワザとなんだと思われる。とすると、拾って欲しかったには拾って欲しかったんだろう。とすれば、一応は「拾って欲しくなかった」という事実と反対のことをワザと言っていることになります。ですので、「皮肉法」といえます。

さらに続けると…


何曜日1969年4月10日"
  • 「アイデンティティーとかポリシーとか無い訳? 廻れって言われたら廻る訳? 転べって言われたら転ぶ訳?」「やだやだ 主体性を持ちあわせない人間て!」
  • 「ちょっと ねえ!! 拾ったんならすぐに返してよっ それとも何? 盗む気!?」
  • 「このオレからわざわざ会いに来てやったのに 礼の一つも言えない訳?」
  • 「アナタ様如きにこうして会いに来る人間くらい 今までの経験ですぐに察して下さいマセン?」
  • 「じゃあ何 オレに奢れって言う訳? 年下にたかる訳? 自分が欲しい物持ってる奴がいたらカツアゲしてもいいと思ってる訳?」「やだやだ利己的な人間て!!」
でもって、上に引用した、
「じゃあね ものすごくつまらない時間をくれてありがとう」
となります。さらに、さらに続けると…
  • 「じゃあ何 礼儀って言われたらなんにでも従う訳? 死ねって言われたら死ぬ訳? 殺せって言われたら殺す訳?」「それはまたご立派ですコトっ」
  • 「何ソレ 人を邪推する訳? 冤罪だったらどうやって謝罪する訳?」
…うう〜。もう、いちいちタイピングするのに疲れた。あとは、その他大勢にしておきます。ようするに、「皮肉法」が群をなしてオンパレードの状態です。

もちろん、この中には「皮肉法」には当てはまらない表現もあります。ですが、少なくとも「トゲのある表現」がならんでいるのは確かです。

ですが、いずれにしても。
草摩燈路は、反語や皮肉を言うために生まれてきたようなキャラです。そういったキャラ性に敬意を表しまして、「皮肉法」のカテゴリのトップであるページの例文として、草摩燈路の登場シーンを使わせていただきました。



 《レトリックを深く知る》

 【1."狭い意味"とか"広い意味"とか】

なにやら先ほど、"狭い意味"での「皮肉法」、なんていう書きかたをしました。このような回りくどい書きかたしなければならなくなったのには、次のような理由によります。

  ○"広い意味"での「皮肉法」

まず、"広い意味"での「皮肉法」というものがあります。

この"広い意味"での「皮肉法」には、トゲをひそませた言いかたの全てを含めます。つまり「トゲのある表現」であれば、どういった表現であっても「皮肉法」に当てはまることになります。批判すること、けなすこと。そういったものがすべて、「皮肉法」となります。

ですがレトリック用語としては、この"最も広い意味"での「皮肉法」のことを「皮肉法」と定� �することは、ほとんどありません。もちろん日ごろ使うことばとしての「皮肉」には、このような意味もあります。というよりも、ふつうはそのように使うものかもしれません。

けれども、そのような使いかたはレトリック用語としてはしません。

  ○"やや広い意味"での「皮肉法」

次に、"やや広い意味"での「皮肉法」というものが出てきます。

これは、ほんとうに伝えようとすることの逆をいうこと、と定義できます。くわしくにいうと、「ワザと自分が思っていることと反対のことを言う」レトリックのことを、「皮肉法」とする場合です。言いかえれば、実際のこととは逆のことを言いながら、それが逆であることが分かるような表現といえます。つまり、


どのように私は音声学私の名前を書くのですか
  1. 回りくどさ : ワザと自分が思っていることと反対のことを言う
  2. 推論 : 聞き手のほうでは、相手の言っていることが思っているのと反対だとキャッチすることになる
という条件をそなえているものが、"やや広い意味"での「皮肉法」です。

この意味で「皮肉法」というレトリック用語を定義することは、少なからずあります。こちらの説も、なかなか有力です。
たとえば、

「彼は一番の悪友でね」
というばあい。この表現は、"やや広い意味"での「皮肉法」といえます。この「彼」という人間について「悪い人」だと思って発言しているのでなければ、逆のことを言っていることになるからです。

しかし、この説には欠点があります。それは、「実際のところ、あまり使われない」ということです。
もちろん、話しかたとしては、あり得るものです。ですが、このように「ほめるために」自分が思っているのと反対のことを口にするということは、あまりないのです。それは、別に遠回しにして表現しなくてもかまわないからといえます。

  ○"狭い意味"での「皮肉法」

そして、最後に。
"狭い意味"での「皮肉法」という定義があります。

この"狭い意味"の「皮肉法」というのは、ワザと真意とは逆のことを言い、その言葉のウラにトゲをひそませて、笑いものにしたり、相手の弱点をついたりするものをいいます。

つまり、この"狭い意味"での「皮肉法」のことを、くわしくみてみると、

  1. 回りくどさ : ワザと自分が思っていることと反対のことを言う
  2. 推論 : 聞き手のほうでは、相手の言っていることが思っているのと反対だとキャッチすることになる
     ――という、上に書いた条件に加えて、
  3. 引用性 : 相手が言ったり行ったりしたことに関してのことを言う
  4. トゲがある :相手を非難したり批判したりするために使う
といった特徴をそなえているレトリックです。この"狭い意味"での「皮肉法」が、このサイトで採用している「皮肉法」の定義です。

これは、よく用いられるものです。たとえば、

「おりこうですね」
といわれた子供は、おとなしくしてはいないものです。

そして、この例文では。

  1. 相手=子供がしている行動について言っている (引用性がある)
  2. おとなしくしていない、ということを批判するために使っている (トゲがある)
という条件を満たしています。ですので、"狭い意味"での「皮肉法」だということになります。

 【2.「反語法」との関係】

「反語法」というレトリックも、あります。そして、「反語法」と「皮肉法」とは似たようなものだと考えられています。

ですが、この「皮肉法」と「反語法」との区別をどのようにするかについては、定まっていません。昔から議論があって、現在でも確立していないのです。

これはそもそも、「皮肉法」の定義がバラバラだということに理由があります。「皮肉法」について、"やや広い意味"だとか、"広い意味"だとかある。なので、ちっとも論議がまとまらないのです。

そしてこのことは、「反語法」というレトリックの定義とも関わってきます。そもそも「反語法」とは何かを考えるときにも、影響してくるのです。


あなたは、MEMキツネ誰であれ

つまり、これまで書いてきたように、「皮肉法」の定義が不完全です。それが原因となって、これを重なり合うことのある「反語法」というレトリック用語の定義にもいろいろ出てきてしまうのです。

具体的に、「皮肉法」と「反語法」との区別をどのようにするかについては、参考書によってさまざまです。ただ、おおまかに言って、

  • 「皮肉法」を「トゲのある表現」として、「反語法」とは別々に考えるもの。
     ――これは、"広い意味"での「皮肉法」のことを「皮肉法」を定義した場合。
         →レトリック用語としては一般的ではない。
     
  • 「皮肉法」イコール「反語法」として、「皮肉法」と「反語法」とを同じものと考えるもの。
     ――これは、"やや広い意味"での「皮肉法」のことを「皮肉法」と定義した場合。
         →この説も有力といえる。
     
  • 「皮肉法」は「反語法」の小分類だとして、「皮肉法」を「反語法」のうちの1つだとするもの。
     ――これは、"狭い意味"での「皮肉法」のことを「皮肉法」と定義した場合。
         →こちらの考え方も有力にある。
という3つのパターンのどちらかを採用している参考書が多いようです。このサイトでは、3番目の定義が採用されています。

このように、「反語法」と「皮肉法」との関係をどのように考えるかについては、十分に統一された考えかたがありません。そのため、私(サイト作成者)の頭の中でも、「皮肉法」と「反語法」との区別が、十分にできているわけではありません。

 【3.「皮肉」をするレトリック】

なお。
"広い意味"での「皮肉法」を「皮肉法」とした場合、つぎのようなことが言えます。

上にも書いたように、人を攻撃する書きかたは全部が、"広い意味"での「皮肉法」ということになります。そして、その結果として「皮肉法」には、下位分類に、大勢のレトリックが並べられることになります。

つまり、"広い意味"での「皮肉法」には、さらに下位分類として、


  • 冷嘲法:相手の弱点をつき、辛辣に評するもの
  • 愚弄的皮肉:相手を周囲の笑いものにするもの
  • 嘲笑的あてこすり:冷笑するために、露骨ではない微妙に述べるもの
  • 愚弄(愚弄的皮肉):ほめているように見せかけながら、実はけなしているもの
  • 嘲弄:怒りを含んでなされる皮肉
  • 偽悪的讃辞:表面上は非難しているようにみせかけて、実はほめているもの
  • 反語的讃辞:ほめているようにみせかけて、実はけなしているもの
  • 反語的緩和:おだやかにみせかけて、実はトゲがあるもの
  • 反語的期待:一見すると希望を述べているようにみせかけて、実はそのむなしさを表すもの
  • 反語的否認:否定しているかのようにみせかけて、実は肯定を示すもの
  • 揚げ足取り:相手の言葉じりを反対の意味で使うもの
  • 擬似謙遜法:自分を中傷するような、自分に対する皮肉をするもの
  • 修辞的疑問:断定を強めるために、わざと反対の意味の疑問文で表現するもの
というように、いろいろと並べることになります。さらに、これを書く際に参考にした『レトリック認識』(佐藤信夫/講談社)によると、
しかも、これで枚挙をつくしたわけではないのだ。
とのこと。「昔の修辞学者たちは、よくこんなに思いついたなあ」と思うくらい、いろいろ下位分類をならべることができます。

 【3.「皮肉法」に近いレトリック】

「皮肉法」は、ワザと本心とは逆の表現をするものです。そして、そのようなレトリックはほかにもあります。

第1に「虚言」。つまり、ウソをつくというレトリック。

第2に「緩叙法(一重否定)」。伝えたいことと反対のことを否定することで逆に、もともと伝えたかったことが強調するレトリック。

第3に「緩叙法(二重否定)」。否定することばを否定することによって、肯定をあらわすレトリック。

くわしいことについては、それぞれのページを参照してください。

 【4.「アイロニー」とか「イロニ� �」とか】

なお。

この「皮肉法」の訳が、「アイロニー」となっている場合と、「イロニー」となっている場合があります。ですがこの違いは、元になっている言語に違いがあるだけです。

「アイロニー」のほうは、英語の発音を写したものです。それにたいして「イロニー」のほうは、フランス語とドイツ語の発音を写したものです。ただ、そういう違いがあるだけです。内容に違いがあるわけではありません。

 【5.書籍類】

  ○このページを作るためにつかった、おもな本

上に書いたような、「皮肉法」の特徴を4つの要素とする考えかた。これについてのネタ本は、

『レトリック辞典』
がメインです。

ただし。
この本が「皮肉法」としては最終的に採用することにしたのは、"やや広い意味"での「皮肉法」です。つまり、このサイトでの「皮肉法」の定義とすることにした、"狭い意味"での「皮肉法」ではないのです。この本を読むことがあるばあい、注意が必要かもしれません。

あと。
ほかに影響を受けている本としては、


『レトリックの知―意味のアルケオロジーを求めて―』(瀬戸賢一/新曜社)
あたりです。
ただし。この本に書かれている「5つ目の要素」については、このサイトでは少しもふれていません。ですので、「ネタ本」とまではいえないとおもいます。

また。

「トゲ」があるかないか。このことを「アイロニー」にふくめるかどうかによって、立場を分けようとする考えかた。これ自体については、

『レトリックと文体―東西の修辞法をたずねて―』(古田敬一[編]/丸善)
から出てきた発想です。
けれども、いろいろな本に書かれている「アイロニー」の説明を読んで、実際にも立場が分かれていることを確認したうえでサイトを書いています。なので、これも「ネタ本」とはいいづらいはずです。

というわけで。
このサイトで書いたような説明は、「えらい学者さん」の説をそのまま紹介しているわけではありません。ですので、なにか「かんちがい」が書かれているかもしれませんが、まあ許してやってください。

  ○使ってはいないけれども、参考になりそうな本

あと。

この「皮肉法」(または「反語法」)にたいしての新しい見解を書いてあるものとして、

『新修辞学―反〈哲学的〉考察―』(菅野盾樹/世織書房)
をあげておきます。

この本には、かなり詳しい考察が書いてあります。なのですが、残念ながら私(サイト運営者)には、きちんと読み解くことができませんでした。というわけで、このページには、この本に書いてある「新しい見解」には触れていないんです。すいません。



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